大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづるkemukemu

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ルオマの初恋 (1)

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「ルオマの初恋」 監督:章家瑞(チアン・チアルイ)
中国映画 (東京都映画美術館)





この映画は、私を文句なく感動させた。


それは、ルオマの初恋のもつせつなさという面だけでなく、
ルオマの自然な笑顔、アミンをみつめる目と表情である。
はじめてヘッドフォンからの音楽を聞いたとき、
ラストの自分の写真が写真雑誌の表紙になっているのを発見したとき、・・・・。


そして、もちろん、なつかしささえ感じる棚田の風景、
季節と時間ごとに変わる棚田と
その風景と調和して暮らす人々である。
冒頭の、戸が開いてルオマがテラスに出る、棚田が見えるシーンがいい。
人は、風景をぬきにしては生きられない。
やさしくルオマを見守るおばあちゃんの存在は、この映画にとって特に大きい。
ハニ族の日本人とほとんど変わらない顔・・・・。


私を感動させたものが、実はもうひとつある。
そして、日本ではほとんど失われた稲作農耕民族の民俗が、
観光行事としてではなく、いまも行われていることであった。
本で読んだだけではイメージがわかなかった。
それをこの映画で、目で見て、耳で聞くことができたからだった。
あっ、これだ、おそらく、こんな感じだったのだと。
映画ではそのほんの一部しか、かいまみることができなかったが、
魂の信仰、稲魂信仰、稲魂迎え、歌舞、田植えの行事、歌垣、魂よび・・・。
このハニ族の習俗は、けっして異文化ではない。
それらは日本に今はほとんど残っていないが、
同じ稲作農耕民族として、
日本にも、かつてあったものであろう。



映画で、ルオマは
「おばあちゃん、私 昆明に行きたいなんて、もう絶対に言わないわ」と言う。
一方、素人だったルオマ役のハニ族の李敏(リー・ミン)は、
その後、昆明へ、そして北京へと女優として進出するのである。
おそらく皮肉なことに、
映画による少数民族と棚田をはじめとした風景の紹介は、
観光地として現地をメジャーにし、
ドラマの舞台となった村や村人たちの暮しや考え方に大きな変化を与えるかもしれない。

しかし、ハニ族をはじめとして、少数山地民族が、
ヘッドフォンで音楽を聴き、
都会を象徴するエレベータへの憧れを否定することは
誰にもできないだろう。


きっと、つらいとき、悲しいとき、うつうつしているときに見ても、
希望がもて、必ず癒される映画であるにちがいない。


そして、よく見ると、深い映画である。
この映画をただ、「美しい棚田の風景」で終わらせては、もったいないと思う。
(これは次回「ルオマ」(2)で書く予定)


原題は「ルオマの17歳」である。
(むしろ、「ルオマ17歳」、この方がよかったのではと思う)