大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづるkemukemu

大道芸、昔の広告、昔のテレビ番組、中井久夫、フーコー

「カチューシャ」

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・・・              (*写真は書庫「その他」から)




人は、
若いときのように、未来が大きく開かれているときも、
また、ある年齢にきて、来し方や過去に目が向きはじめたときも、
どちらも、歌によって元気になる。
そして、「みんなでいっしょに」歌うと、
さらに元気になる。


きょう、出前歌声喫茶に参加した。

歌声喫茶」、
この言葉を知っていたり、実際に行ったことのある人は、
おそらく、50歳代前半以上の年齢の人である。

歌声喫茶の元祖は東京の西武新宿駅前にあった「灯」という店で、
昭和31(1956)年に開店した。
(「歌声喫茶「灯」の青春」(集英社)という本によると、昭和29年説は誤り)

昭和23年頃から始まったうたごえ運動が全国的にひろまり、
反戦平和が叫ばれた。
勤労者、学生、若者たちが集まり、店の歌唱リーダーの指揮により、
アコーディオンやピアノ伴奏で合唱する。
主に歌われていたのは、ロシア民謡、労働歌、日本の歌、世界の歌と、
マスコミの流行歌にない生活に根づいた歌だった。

歌声喫茶の全盛期は昭和35(1960)年前後で、
日本各地に200軒は、あったといわれている。
昭和35年といえば、いわゆる「60年安保」の年であった。
昭和35年を頂点にすこしずつ下降し、
「70年安保」を経て、昭和40年代後半からかげりをみせる。

時代は変わった。
合唱になじまない四畳半フォークの時代へ、
そして、その後の若者の歌の好みの変化、
やがてカラオケの時代に。
歌声喫茶「灯」は、昭和52(1977)年、閉店した。
合唱団やコーラス部でなく、
気軽に「みんなといっしょに歌う」時代は終わった。

学校の音楽の授業やコーラス部(団体)でしか合唱したことがない、
いまの若者には、きっと想像できないと思う。
むしろその光景に、違和感と異様なふんいきを感じるにちがいない。
時代は変わったのである。
若者がわけへだてなく一体感をもてた時代は、どこにいったのだろうか。

ネットの掲示板やブログは、それなりに癒される面もあるが、
しょせん、バーチャルな仮想空間でしかない。
そして、カラオク大会も歌声喫茶風であっても、「歌声喫茶」ではない。


しかし、あの「歌声喫茶」に行ったことのある若者たち(当時の)は覚えていた。
いっしょに歌うことで、元気をもらったことを、
歌声喫茶という場で、多くのことを語り、仲間や友達ができたことを。
あの一体感! (当時流行した)「連帯」という言葉を少しでも実感したことを。
ここ10年ぐらいの間に、全国で歌声喫茶が復活しはじめているという。
また、歌声喫茶風のイベントや出前歌声喫茶が増えている。
もちろん、参加者は当時の若者である。


前置きは、そのぐらいにして、
この歌声喫茶の定番が「カチューシャ」というロシア民謡だった。



「カチューシャ」
イサコフスキー詞 ブランテル曲 訳 関 鑑子 
 
りんごの花ほころび
川面(かわも)にかすみたち
君なき里にも
春はしのびよりぬ
 
岸辺に立ちてうたう
カチューシャの歌
春風やさしく吹き
夢が湧くみ空よ

カチューシャの歌声
はるかに丘を越え
今なお君をたずねて
やさしその歌声
 
りんごの花ほころび
川面にかすみたち
君なき里にも
春はしのびよりぬ



カチューシャは、ロシアの一般的な女性名の1つで、
もともとは、エカチェリーナの愛称という。

この曲は1939年に発表された。
ただ、詞はもっと前につくられたらしい。
歌詞は、もともとは戦争とは関係のないものであったが、
独ソ戦が開始されると、
同じメロディでカチューシャ砲をテーマとした戦意高揚歌もつくられた。
対独戦に使われた軍用車に搭載した兵器多連装ロケット砲を、
愛称としてカチューシャと呼んだ。
流行歌として戦場の兵士に広く愛された結果、
替え歌が多く生まれることとなったという。
それらは、国境警備にあたっている若い兵士が、
故郷の恋人カチューシャを想う内容だった。

シベリアの収容所に抑留されたある日本人によると、
ロシア人兵士が、戦争を生き抜く歌、勝利の歌として
「カチューシャ」をうたうのをよく聞いたという。

さて、「カチューシャ」が日本語で初めて歌われたのは昭和23(1948)年。
音楽集団である「中央合唱団」が設立され、
その指導者であった関鑑子さんが日本語の歌詞をつけた。
関鑑子さんは、その後日本の「うたごえ運動」のキーマンとなる。
やがて「うたごえ」は、はじめ強かった政治色を薄め、
歌声喫茶にひきつがれていった。


調べてみて、「カチューシャ」が戦争とかかわりがあったことに驚いた。
たしかによく聴くと、曲も勇壮で「軍歌」調である。
ロシア民謡としてポピュラーな「灯」の歌詞にも、
「戦いに結ぶ誓いの友」とか「祖国の灯のために闘わん」の歌詞がある。
ここにも戦争の影が濃く、軍国歌謡の色彩が強い。
そのほか「心さわぐ青春のうた」、「ポーリシュカポーレ」、
「バルカンの星の下に」なども、
内戦や第二次大戦などを通じて戦時歌、軍歌として出発したらしい。


とはいえ、「カチューシャ」は、
日本の「リンゴの歌」や「りんご追分」(この2曲は後年聴く)とともに、
好きな歌の一つである。




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