大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづるkemukemu

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中井久夫語録(戦争)15

中井久夫(1934年生)

戦争と平和 ある観察」(2005)

*『樹をみつめて』みすず書房(2006)
または『戦争と平和 ある観察』人文書院(2015)から




(前回からのつづき:非対称性戦争)

「(3)戦闘員と非戦闘員とが服装・徴章その他によって識別できるのが対称戦争であり、しばしば識別しがたいのが非対称戦争である。
性や年齢による区別さえ難しい。老農夫や年端のゆかない少女が突然、戦闘員に変貌する。従って、「やられる前にやれ」ということになり、しばしば虐殺問題を起こす。

(4)前線と後方の区別がつかなくなる。
ベトナム戦争では、戦闘員がジャングル戦の特殊技能を必要とするために双方にこの区別がなお存在したが、イラク戦争では双方ともにこの区別が消滅し、物資輸送がしばしばもっとも危険となった。

(5)しばしば外国人組織が加わって局面を厄介にする。
それは原理主義的集団から傭兵までのさまざまな集団がありうる。敵対的武装市民と外国人義勇兵との区別も曖昧になる。

(6)通常戦争には最後に「名誉のための出撃」が試みられる。
メッスに包囲されたフランス軍においてはナポレオン3世が最後の突撃の進言を拒否して降伏した。1918年においてドイツ海軍は全艦隊を挙げて出撃しようとして水平の反乱に阻止された。1945年4月6日の戦艦大和の出撃は名誉のための出撃が反対に遭わずに実現した珍しい例である。玉砕突撃も同じであろうが、これは米軍に「残敵掃討」をしなくてよいようにした。

(7)なお、神風特別攻撃隊は人命を顧みないという非対称性と、正規軍の印をつけた軍用機を用いて敵正規軍を攻撃した対称性とを併せ持っているが、米艦隊にとっては、いつどの方向から襲ってくるかわからず、また時とともに主に外郭部の小艦隊を襲撃するようになったという点での非対称性があり、事実、艦船の損害よりも心的外傷のほうが大きかったらしい。
しかし、イラク戦争では爆装した個人による「自爆攻撃」という形で決定的に非対称性を帯びるに至った。この場合も、狙いは恐怖つまり心的外傷であろう。・・・・」






(つづく)