大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづるkemukemu

大道芸、昔の広告、昔のテレビ番組、中井久夫、フーコー

7月7日 (5)

イメージ 1

イメージ 2

「日本評論」 昭和13年9月号から    (*下の画像は必ずクリックして拡大!)
安井郁「若い日本の一つの動向」
<*安井郁(かおる):当時は東京帝国大学法学部助教授、戦後、原水爆禁止日本協議会原水協)の初代理事長>





手元に昔、古書店で50円で購入した本がある。
「学者先生 戦前戦後言質集」(昭和29年・内外文化研究所編・全貌社)である。
この本は、まだ「進歩的文化人」という言葉がなかった当時に、
知識人たちの戦前と戦後の言動の変節を鋭く糾弾している。
全貌社といえば、
「全貌」という雑誌も発行していたかなり右よりの出版社であった。

その「はしがき」より
「かつて八紘一宇論で、青年を送り込んだその同一人が、
今はマルキシズムを唱え、平和論をぶっている。
学生、青年層は、概ね過去の彼等の発言内容を知らないから、
今日いう所のもののみを信じて尊敬したり、賛成したりしている。・・・
本書は読者大衆が、いわゆる学者先生の著作を読む場合に、
これらの学者先生に対する適正な判断を下すための
客観的な資料を提供する意図を以って刊行した。
読者はこれによって、世の大家然とした学者先生が、如何に迎合的であり、
無節操で、且つ人間的弱味をもっているか想到されるであろう。・・・
本書に見られる如き変節の内容が、果して進歩という名に価するであろうか。
・・・
これらの学者先生が何故このような変転を行うか?については日本の思想界、
ジャーナリズムの根本的課題として深く反省されねばならぬであろう。・・・」

なかなか鋭い指摘である。

この本では31人(後に版を重ね増えている)とりあげられているが、
ここでは太平洋戦争前、特に日中戦争支那事変)にふれているものだけを、
抜粋する。


「日本は満洲に於いて明確に政治経済上の権利を得た。斯(かか)る権利は日本国として歴史上必然に得可き権利であり、国を賭して戦へる日露戦争以来得たる権利を再確認したもと云へる。・・・指導国たる日本国のためには有益なものである。」
(蜷川新・昭和12年満洲に於ける帝國の権利」清水書店)

「戦争は文化の発展に対して一つの積極的な意味を有するものと云ふことができる。・・・戦争はしばしば基礎的社会の革新を実現する事がある。戦争を通じて基礎的社会が新しいものになり、高いものとなる事がある。・・・」
清水幾太郎昭和14年「現代の精神」三笠書房

「・・・とくにこの事変によって支那民族意識が強化された。のみならず、日本武力のこの輝かしい進出の背後には、一つの新しい民族意識の発展が伴っていた。・・・・南支もいづれ日本の支配圏に入ってくるでせう。・・・・」
(今中次麿・昭和16年「東亜の政治的新段階」日本青年外交協会)

「戦争は既に我々の現実に対して与へられた不可避なる歴史的事実である。これを回避すことは唯人生を逃避することであるにすぎない。・・・もし、戦争というものがなかったとすれば、我々の民族は自己の本質の中に宿る最も高貴なるものの一つを遂に自覚することが出来なかったのではないであらうか。」
(柳田謙十郎・昭和14年「日本精神と世界精神」教養文庫:弘文堂)

「大きな戦争が起きるのは、けっきょく、人類が大きく進みつゝある何より証拠だ。大きく進んだ人類はきっと、戦争を非常にりこうに、取扱う道を考えだすにちがいない。だからもつと大きな戦争に向うこそ、もつと大きな平和があることを信じてよいわけだ。」(高倉テル・昭和15年「大人の読本」厚生閣)

「この非常時にもなほこだわり、デモクラシーの原理によって万事を律せんとし、議会中心政治を主張するものあらば、政治は社会情勢に順応すべきものだ、政治は勢なり、といふ理を余りにもわきまへざる者である。」
(戸沢鉄彦・「改造」昭和13年9月号「日本政治の現段階」)

「・・・親なればこそ可愛い子をたしなめる責任を感じ、また敢てこれをなし得るのである。・・・吾々は東洋の和平を妨げる国民政府を唯憎むが故に之を討つのではない。その間違つたどしょッ骨を叩き直してやらなければならないと思(?)へばこそ敢て彼等に鉄槌を加へる所以である。」
(風見章・「改造」昭和13年3月号「剣を持たざる将軍」)


実はこの本の掲載されていた出典とその抽出内容について、
ホントにホント?とはじめは信じられなかったが、
たまたま最近、画像の一文が掲載された資料を発見して、信憑性があると思った。

これら知識人の各々の文章の一部をみただけでも、
アジアの盟主としての「指導者意識」、戦争=発展→必然性の意識、
既成事実の追認、非常時による昂揚などが感じられる。
日中戦争を経て太平洋戦争につながる時代の空気は、
既にこの段階でできあがっていたと思われる。




・・・・