大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづるkemukemu

大道芸、昔の広告、昔のテレビ番組、中井久夫、フーコー

独裁者(了)

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ローマ教皇ピウス12世(在位1939~1958)が、
ナチス体制を黙認し、ユダヤ人迫害に対して抗議声明も出さず沈黙したのは、
教会の組織、制度の統治者として、全体の安泰を願い、
ナチスとの対立による教会への攻撃を避けたかった、
また反共主義の立場から、宗教をアヘンとする
ボリシェヴィズムに対する唯一の強力な防壁としての役割を
ナチスに期待したからといわれている。
ローマ教皇ナチス」(大澤武男著)によれば、
私的にはユダヤ人に救いの手をさしのべ、
ヴァティカンや離宮に数百人のユダヤ人をかくまっていたし、
ローマの教会や修道院の多くが数多くのユダヤ人に隠れ家を提供し、
救ったという。

カトリック教会は、
ホロコースト」から20年余経過した1965年に
「ノストラ・エターテ」(キリスト教以外の諸宗教に対する、教会の態度に関する宣言)を出した。
これはユダヤ教を伝統ある正当な宗教と認め、
キリストを殺した罪人というユダヤ人に関する教えを改めるという宣言で、
その結果、聖金曜日の礼拝式は、
ユダヤ人に対する敵意をあおらないようなものに変えられた。
同じような変更は、プロテスタントにおいても行われた。
2000年3月 ヨハネ・パウロ2世は、
聖地訪問、嘆きの壁・ヤド・ヴァシェムなどを訪問し、
ユダヤ教徒は我々の兄である」と
キリスト教の歴史におけるユダヤ教徒への対応への反省を公式に発表した。




最後は、まとめとして、
ハンナ・アーレントの言葉(語録)でしめくくりたい。
なお、ユダヤ人であるハンナ・アーレントは、
ナチスの政権獲得によるユダヤ人迫害を逃れるため、
1933年にフランスに亡命したが、
第二次世界大戦が始まり1940年にフランスがドイツに降伏すると、
アメリカ合衆国に亡命した。


<ナチの反ユダヤ主義について:ハンナ・アーレント語録>
全体主義の起原」(1951)より抜粋)

ユダヤ人大量虐殺について住民は情報を得ていたが、このことがヒトラー体制に対する一般の支持を少しも弱めはしなかった。

全体主義政権の隠れもない犯罪性にもかかわらず、大衆の支持によって成り立っていた。

・ロシアでもどの衛星国でも反ユダヤ感情は一般に強く、反ユダヤ主義プロパガンダはつねに非常な人気を博してきた。

ユダヤ人の世界陰謀のフィクションは、世界支配をめざす全体主義の要求にとって、好都合な背景を用意してくれた。

ユダヤ人の世界陰謀の作り話は、権力掌握前のナチのプロパガンダのうち最大の効果を発揮した嘘となった。反ユダヤ主義は19世紀末以来、デマゴキー的プロパガンダの最も効果的な武器となっており、ナチが手を貸すまでもなくすでに20年代のドイツとオーストリアで世論の最も強力な要素の一つをなしている。

反ユダヤ主義的な戦後プロパガンダの諸テーマは、ナチの創作でも独占物でもなかった。ユダヤ人の世界陰謀に関する嘘は、ドレフュス事件以来いたるところに流布されていて、各地に散在するユダヤ民族が実際に国際的結びつきを持ち相互に依存し合っているという現実的基礎をもっていた。ユダヤ人の権力に関する本質的には無害な、民衆的な伝説の形で誇張された作り話は、18世紀の末、ユダヤ資本と国民国家財政の密接な関係が明らかになった時期に源を持っている。ユダヤ人をありとあらゆる悪の権化と見、そのとき次第で違う悪の権化に仕立てたことは、たいていは中世的な迷信の残滓とみなされているが、事実はむしろユダヤ人が解放以後、近代ヨーロッパ社会の中で果たしてきた曖昧な役割に起因することなのである。確かなのは、ユダヤ人がこの戦後の時期にかつてないほど目に立つようになり、文化的、公的生活において強大な影響力をもつようになったことである。

・ナチプロパガンダは、ユダヤ人を世界支配者に仕立て上げることによって、「最初にユダヤ人の正体を見抜いて戦った民族がユダヤ人の世界支配の地位を引き継ぐだろう」ことを保証しようと狙った。現代のユダヤ世界支配のフィクションは、将来のドイツ世界支配の幻想を支える基盤となったのである。

・世界征服を目指す国際政治を大々的におこなうための最善の手段はユダヤ人問題にあるということを非常にはやくから認識していた。ここで重要なのは、<ユダヤ人問題の解決>はイデオロギー的に言って彼らの最上の輸出商品である。とにかくユダヤ人問題というものが実際に存在するあらゆる国に対しては-ということからだけでなく、ドイツのユダヤ人を放逐することによってまずユダヤ人問題を国際的な政治問題に仕立て上げ、外国が亡命者に対して取るすべての措置をいわばナチ自身の定めた法律の暗黙の承認および延長のようなものに仕立て上げてしまったことだ。

・世界のすべてのユダヤ人を否おうなしに第三帝国に対する不倶戴天の敵にしてしまうことによって、ナチは、外国の内政問題に干渉する機会をあらゆるところで見つけることができたのである。

・自分たちこそ未来の世界の支配者だという陰謀的なフィクションを真剣に考えていたかは、1940年、労働力の損失と重大な軍事的影響を無視して東部地方において住民虐殺政策を開始し、また遡及的効果をもって第三帝国刑法の一部を西欧の被占領国に適用する立法をおこなったときにあきらかになった。いつ、どこで、誰がおこなったかにかかわりなく、第三帝国に反対するあらゆる言動を反逆罪として罰すること以上にナチの世界支配の要求を公然と表明する効果的な方法はまずないだろう。

・世界政治との関連では比較的重要でない現象だったユダヤ人問題と反ユダヤ主義が、ナチ運動の台頭と第三帝国の―この国では各市民は自分がユダヤ人ではないことを証明しなければならないー組織構造の確立の、ついで比類なく世界戦争の、そして最後には西洋文明のただなかでの前例のない大量殺戮犯罪の発生の契機となったのだ。

・ナチが「シオンの賢者の議定書」という偽書を世界征服の教科書として使ったことはもちろん反ユダヤ主義の歴史と無縁だが、しかし何が故にこんな本当らしくもない作り話にそもそも反ユダヤ主義の宣伝として役に立ち得るだけのもっともらしさが含まれていたかは、この反ユダヤ主義の歴史によってしか説明されない。

・1870年代および1880年代の初期反ユダヤ主義政党の登場は一つの時期を画し、このときから利害の衝突と明確な経験という限定された事実的な基礎は踏越えられて、「最終的解決」に通ずる道が開かれる。これより以後、帝国主義時代とそれにつづく全体主義運動および全体主義政府の時代においては、ユダヤ人問題ないしは反ユダヤ主義イデオロギーを、近代ユダヤ人の歴史と現実とは事実上ほとんどまったく関係のないさまざまな問題から切り離すことはもはや不可能である。

・「シオンの賢者の議定書」のような歴然たる偽書があれほど多くの人々から信じられ、大衆運動の聖書となり得ているとすれば、どうしてこのようなことが可能になったかを解明することが必要である。

・教会のユダヤ人憎悪がまさに解放された裕福なユダヤ人に向けられたのは、このようなユダヤ人は国務に対して影響力を持ち得るからであり、キリストによるこの世の支配を立証するものとしてこの選ばれ呪われた民族は圧迫され貧しくなくてはならぬとする神学の要請が、このユダヤ人の存在によって否定されたからであるということが正しいとしても(ただしカトリシスムはまさにこの攻撃によって、近代特有のユダヤ人憎悪の成立に一役買っているのだが)、他方また教会が、最近の政治的反ユダヤ主義運動に必要な徹底性、すなわちユダヤ人の絶滅ということを神学的な、それ故また原理的な理由から主張することはできず、この舞台から降りなければならなかったということも間もなくあきらかになった。反ユダヤ主義者がユダヤ人迫害と同時にヨーロッパにおけるユダヤ人の遺産を、すなわちキリスト教清算することにとりかかったとき、反ユダヤ主義から最大の利益を引出したのは〈キリスト教国家〉ではなく、まったく別のものであることがたちまちあきらかにされたのであった。

ユダヤ人問題と反ユダヤ主義がナチ運動の台頭と第三帝国の組織構造の確立、そして前例のない大量虐殺犯罪の発生の契機となった。

・永遠の反ユダヤ主義はほとんど2千年にわたるユダヤ人憎悪の歴史の裏づけがある。

全体主義運動・政府の時代においては、ユダヤ人問題または反ユダヤ主義イデオロギーを「世界支配」という目的のために利用する。

ユダヤ人憎悪というものを強制的な民族保存の目的のために利用することを考えた。

国民国家の没落と反ユダヤ主義運動の台頭が平行して展開したこと、国民国家の集合として組織されたヨーロッパの崩壊とユダヤ人の絶滅―このことは世論のなかで反ユダヤ主義イデオロギーが他のすべてのイデオロギーに対して勝利を占めたという事実を示している。

反ユダヤ主義的なスローガンが、膨張と在来の国家形式の打破とのために大衆を煽動し組織するもっとも有効な手段であった。


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私kemukemuは、チャップリンの映画の主なものはほとんど見ている。
特に、この映画「独裁者」は、途中から「笑い」が消えるほど、
ヒトラー全盛時代に独裁者ヒトラーの悪の本質をむだなく描き、
勇気あるメッセージをこめたもので、
映画史上のうえでも大変な傑作だと思っている。
後半は映画という物語の枠をこえ、
チャップリン自身の全世界への警告メッセージが押し出され、
そしてまた最後にふたたび物語にもどるという構成は、
みごとである。




(映画「独裁者」了)



追加<参考記事>

もう一人の独裁者・スターリン
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611/46182398.html

秘密警察管理下の相互監視社会
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611/29477023.html

幼い頃、ナチによる収容所で過ごしたシャンソン歌手バルバラ
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611/49831403.html

日本人と戦争
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611/49709213.html
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611/19734084.html
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611/24160946.html
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611/42502491.html





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