大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづるkemukemu

大道芸、昔の広告、昔のテレビ番組、中井久夫、フーコー

「満州」語録 4

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*写真:「最新 満洲寫真帖」(昭和13年発行)から
上 「大連 浪速町」
下 「大連 日本橋と其の附近」




●『ほろびた国の旅』 三木 卓

「それで、ぼくは、あなたにおうかがいしたいんです。
そういうあなたが、この満州国という国が見ぬけないわけはありません。
この国が、日本につごうのよい植民地で、
この国では日本人以外の人びとはけっして幸福になっていないし、
日本人自身も、金や力を持っているのでよくは見えますが、
人間としては恥ずかしい生活を送っていることを、
あなたは知っていらっしゃるでしょう。
あなた自身が
ほかならぬ日本人の一人として苦しまれていらっしゃるようにです。」
「そう。日本人は、この土地へ来て、だめになる一方です。
人を使い、その汗が生みだしたものをとりあげる。
なんとなく自分を満州人や朝鮮人よりもえらいものだと思いこみ、
いばる。いじめる。
国の力をうしろにせおって、いたけだかになる。・・・」
ぼくの楽しい思い出をつくるために、
どれだけの人びとがその犠牲になっていたか、
ということを知ってしまった。・・・



●『砲撃のあとで』 三木 卓

おれはどうなるのだろう、と少年は思った。
海のむこうにある国へむかって、人々は流れていくが、
そこはどんな所なのか、見たことがなかった。
この土地では、今まで、自分で気がつかなかったが、
自分たちはよい思いをしてくらしていたらしい。
戦いが終ってから、
この土地の人間が植民者である自分たちにむけた眼は怒りにあふれていた。・・・・
人々は流れていった。
かれらは祖国を天国のように語り、自分から進んで、
よろこんで帰るところのように言った。
しかし、それはほんとうなのだろうか。
祖国の記憶のない少年にあるのは、
この混沌とした死をはらんだ土地だけだった。
海の彼方にある土地は
かれから何の具体的な根拠をもった感想をも引き出すことはできなかった。
ただ、かれにつきまとっていたのは、
この土地にいることを許されなくなったから、
あの土地へ流れて行くのだ、という思いだけだった。・・・・





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