大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづるkemukemu

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「戦争とストレス」語録 7

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その1『戦争における「人殺し」の心理学』から ~6
(デーヴ・グロスマン著)




「 リチャード・ゲイブリエルの「もう英雄は要らない」では、精神的戦闘被害のさまざまな症状や発現例が歴史的に検討されている。ゲイブリエルがあげているのは、疲労症状、錯乱状態、転換ヒステリー、不安状態、妄想および強迫状態、そして人格障害である。


・-疲労

身体的・精神的な疲憊(極度の疲労*ひはい)状態であり、最初期のひとつ。しだいに無愛想になり、ちょっとしたことでもいらだち、仲間との共同作業に興味を失い、身体的・精神的な努力の必要な仕事や活動はすべて避けようとする。いきなり泣き出したり、発作的に激しい不安や恐怖に襲われるようになる。音への過敏症や過度の発汗や動悸といった身体症状が現れることもある。このような疲労症状は、より進んだ完全な虚脱に至る前段階である。さらに戦闘を続けるよう強制されると例外なく虚脱を起こす。


・-錯乱状態

 疲労はすみやかに現実からの病的解離に移行しやすい。これが錯乱状態の特徴である。自分がだれでここがどこなのかわからなくなる場合が多い。環境に対処できず、精神的に現実から逃避する。症状としては譫妄(*せんもう)、病的解離、躁鬱的な気分の変動があげられる。よく目立つ反応としてガンザー症候群がある。冗談を言いはじめ、とっぴな行動をとり、あるいはユーモアや軽口に恐怖を紛らそうとする。
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・-転換ヒステリー

 戦闘中に心的外傷によって起きたり、何年もたってから心的外傷後障害として発症する。自分がどこにいるかわからない、任務を果たせないといった症状を呈し、だれもが恐れる戦場を平然と徘徊するなどの行動をともなう場合が多い。健忘症を起こし、記憶の大半を失うこともある。ヒステリーから痙攣発作を起こすことも多く、発作時は胎児のように丸くなって激しく震える。

 ゲイブリエルによれば、両大戦中、腕の痙性麻痺の症例はごく一般的に見られたという。この場合、麻痺は引金を引くほうの腕に現れるのがふつうである。ヒステリーが起きやすいのは、脳震盪で失神したあと、運動障害を起こすほどでない軽傷を負ったあと、九死に一生を得るような体験のあとなどである。また、負傷して病院または後方に後送されたあとで発現する場合もある。戦場から離れてからヒステリーが起きるのは、戦闘復帰に対防衛の場合がきわめて多い。身体的な症状はさまざまだが、戦闘の恐怖から逃避しようとして精神が引き起こす症状であることに変わりはない。


・-不安状態

 不安状態の特徴は激しい疲労感および緊張感で、これは睡眠や休息では軽快せず、悪化すると集中力が失われる。眠っても恐ろしい悪夢を見て何度も目が醒める。しまいには死ぬことしか考えられなくなったり、へまをしでかすのではないか、自分が臆病者になのを仲間に悟られるのではないかという恐怖にとり憑かれたりする。全身性の不安は完全なヒステリーに移行しやすい。息切れ、脱力、疼痛、目のかすみ、めまい、血管運動異常、失神をともなうことも多い。
 その他の反応として情動性高血圧がある。戦闘から何年ものちに現れるもので、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむベトナム帰還兵によく見られる。発汗、不安などのさまざまな随伴症状をともなって、血圧が急激に上昇するという症状である。

                            」




(つづく)